「良いから、こっちに来るのだ!」

「えーいやだー、これから学校だもん。」


「良いから、こっちこっち!」


小学2年生の小さな手が私を一生懸命引っ張るので、何となく一生懸命は抵抗出来なかった。

そう、こいつは私の可愛い妹!的な存在!


駅に向かう途中に、我が書道教室の生徒に捕まってしまったのです。
キラキラした上目遣いのおかげで、180度方向転換して駅に背を向けて歩く事に…


ま、可愛いからマンションの前まで送ってやるかー


「良いからマンションの中まで来るのだー!」

むむ?
このマンション始めて入ったけどめっちゃ綺麗じゃーん!


「良いからエレベーターで上まで上がるのだー!」

えー、
ロビーもめっちゃ素敵だねー!

「こっちなのだー!」

へーいいとこ住んでんじゃん、
何号室だっけー


「こっから下をみるのだ!」

「ん?何で?」


せっかくエレベーターで登ってきたのに、少し階段を降りたところで下を指差してる…

???


…そうか、何か見せたい物があって私をここまで引っ張ってきたのか(^O^)



「なになにー?」

「あそこに黒いドアが見えるでしょ?」

「うん。」

「あそこから外に出られるのだ!」


え。



お別れの挨拶さえ曖昧なまま、あいつはさっさと家に入っていった。





良いから良いから

と連れて行かれたけど、
良い事なんて何もなかったのです。


それから私は、言われた通り黒いドアから外に出て、何事もなかったように駅に向かって歩き出しました。

だって本当に何事もなかったからね


あー色々色々だわー